臍帯

ガタンゴトンと先ほどより大きな音を立てながら電車は橋を渡る。

橋の下を流れる川に夕日が反射するのを眺めていたら、角刈りの男が歩み寄ってきて僕にこう訊いた。

「生まれた時のへその緒の長さって覚えてます?」

急になんだ、怖すぎる。

角刈りの男は小さなノートとペンを構え僕の返答を待っている。

僕は「え、」と声に出すのが精いっぱいだった。

「どうですか、このくらいですかね?」

と、手で20cmほどの幅をつくりながら角刈りはしゃべり続ける。

いやちょっと待ってくれ。

意味がわからないことはたくさんあるが、ひとまず一つに絞るならば、なぜ他人のへその緒の長さが知りたいんだ。

「覚えてないですかね?」

もちろんだ。覚えてない。

そんなもの覚えてるヤツがどこにいる。

「いや、ちょっとわからないっすね・・・」

僕がそう答えると角刈りは顎に手をあてた。

何をそんなに考えることがある。

これからあなたが何人に尋ねるのかは知らないが、きっと正確に答える人は出てこないぞと、いよいよ声に出してツッコもうとしたとき、

「そうですよね・・・」

と呟いて、角刈りの男は違う車両に歩を進めた。

16歳の放課後の記憶だったかと思う。

夕日がつくるマダラな橋の影が角刈りの背中を彩るのを思い出しながら、僕はまだあの時のアンケート結果を待っている。

最新記事

すべて表示

祝婚―6

吉野弘の代表作『祝婚歌』にはこうかいてある。 " 二人が睦まじくいるためには 愚かでいるほうがいい 立派すぎないほうがいい 立派すぎることは 長持ちしないことだと気付いているほうがいい 完璧をめざさないほうがいい 完璧なんて不自然なことだと うそぶいているほうがいい 二人のうちどちらかが ふざけているほうがいい ずっこけているほうがいい " あたたかみのある言葉がここからもつづく。 キャンバスの上

祝婚―5

先輩の結婚式当日。 受付の準備を頼まれた僕と三四郎は朝方の新幹線で軽井沢へと向かった。 僕がサンドイッチを食べていると、三四郎は割箸をぱかっと割って、 チップスターを一枚その箸でつかみ、口に運んだ。 「俺、ポテトチップスとかも箸で食べるタイプなんだよね」 まだ寝起きのザラザラした声で三四郎は言った。 僕は相槌を打たずパソコンを開き、本番用の音源を三四郎に聞かせる準備をした。 カラオケに選曲をしに行

祝婚―4

駅を降りて、日焼けサロンやキャバクラを横目に見ながら、大通りに出る。帰路を遠回りして、僕はドン・キホーテに向かったのだ。 「ドンドンドン、ドンキ、ドンキ、ホーテ」と軽快なBGMが僕を包む。 「ボリューム満点、激安ジャングル~」とご機嫌な歌声を聴いて、ふとこの曲の歌詞を確認したいと思った。 惰性でいじっていたスマートフォンに「ドン・キホーテ 歌」と打ち込むと、この曲の名前が「Miracle Shop

​TAKEHITO TERUI