文字

自分なりのルールというものが誰にでもありそうである。

「ノートの1ページ目は使わない」

「肉は頑張ったときしか食べない」

「1杯目にビールを頼まない」

「たばこはもらうけど買わない」

「コーヒーはミルクを入れた後、混ぜない」

などなど、僕も今まで色んな趣味嗜好に出会ってきた。

意識してやること、やらないことがある場合、おそらくそこにはきっかけというものが存在するだろう。

僕にもひとつ、明確なきっかけをもったやらないことがある。

「文字の書いてある服は極力着ない」

ときは高校の修学旅行に遡る。

制服が学ランだった高校時代、修学旅行は勝負であった。

初めて私服で皆の前に登場するのだ。

いつも遊ぶ仲の良い友人は別として、思春期真っ只中の自意識の権化たちのなかに身を置く以上、「あ、あの人こんな服着るんだ」というインナーモノローグからは逃れられない。

流行りの洋服に疎かった僕は、修学旅行前におしゃれヤンキーたちの買い物に同行して何とか高校生の最大公約数的なファッションを揃えることが出来たのだ。

そして迎えた修学旅行。

場所は沖縄。

私服の学友たちが群れを成して移動する。

ここで共通点を発見するのだ。

「筆記体が多い」

人は高校時代に「筆記体」に憧れる習性があるらしかった。視界に写るどの服にも筆記体で文字が書いてある。そして筆記体の特性がこれだ。

「なんて書いてあるかわからない」

わからないのだ。そのシャツにとって文字は「意味」ではなく「デザイン」であるのだから、何が書いてあるかがわかる必要がない、というところだろうか。

しかしながら、わかるものもあった。

目の前を歩く、見たことはあるが話したことのない彼の背中にはこう書いてあった。

「You are God」

とんでもないことが書いてあるじゃないか。

談笑しながら歩く彼は、自分が世界に発信しているメッセージに気づいているのだろうか。そして「あなたは神だ」と宣言し続ける高校生の君は一体何者なんだ。

それからというもの、服を買いに行っても書いてある文字がいちいち気になるようになった。

「ARMY」

僕は入隊していない。

「UCLA」

僕は入学していない。

「NEW YORK CITY」

そんな大都市背負えない。

一時期、

「Superdry極度乾燥(しなさい)」

というロゴが施されたイギリス発のブランドが流行したときは愕然とした。「極度乾燥」という想像できない状態がすでに怖いのに、「しなさい」と命令だ。そしてこれが流行っている。僕がファッションの先端にタッチする日はおそらく来ないだろう。

当面の願いは「ユニクロよ、永遠に」である。

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