祝婚―2

先日の居酒屋を出てから、僕は結婚式の余興のことばかり考えるようになった。もっと色々と考えるべきことはあったはずなのだ。しかしながら相方の大矢三四郎はアイコスを吸いながら携帯ゲームばかりやっているものだから、彼から何か余興に関しての「いい塩梅」のアイディアが発せられるとは考えづらく、打開策を講じるのは自然と僕の役目になっていた。

バイトに向かう。先輩の結婚式の日は刻々と近づいてくる。晩夏の日差しに目を細めながら駅まで歩いていると、なんとかなりそうな気もしてくるが、それは気がしているだけで、具体的に物事はまだ何も進んでいなかった。

小田急線の車窓から住宅街を眺めながら、(今日は?余興の打ち合わせいける?)と三四郎に連絡をした。昼夜逆転生活の彼がすぐに返信をすることはもはや望んでいない。夕方、起き抜けのアイコスを吸いながら嫌々返してくれれば良い。

なぜこんなにも結婚式の余興というのは難しいのだろうか。

理由はいくつかあるのだろうが、最も大きな理由は「観ている人たちがお客様ではない」からではないだろうか。演劇や音楽のライブのように、お金を払って観に来てくださった方々がいて、表現をする僕らがいるという、観たいと表現したいの相互関係が成り立っている場所ではないのだ。

そこに居るのは、新郎新婦の家族、幼いころ一緒に泥んこになった友達、やりきれない事があったときに笑いながら一緒にビールを飲んでくれた親友、つまり、主役の二人がこれまでの人生を振り返ったときに思い浮かぶオールスターたちである。

永遠の愛を誓う場所に、人生に欠かせない人たちが集い、祝福をする。考えれば考えるほど、僕らが華を添えるには、もともとの華が美しすぎた。

こんな場所にノリで行こうもんなら、僕らの「余興」の時間が「トイレに行くタイミング」になることは容易に想像ができた。

夕方、バイトの休憩に入り、携帯を見ると三四郎から返信が来ていた。

(すまん!バイト先のベトナム人がばっくれて急遽バイト行かなきゃだ・・・来週なら!)

彼はときに、どういう顔をしたら良いかわからない連絡をしてくる。

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​TAKEHITO TERUI